エンジェル投資家の目的はキャピタルゲインを得ることはもちろん、起業家を支えて、ひいては社会に貢献することや、節税目的など多岐にわたります。
ご存知のように、日本の所得税は累進課税になっているため、所得が高い人ほど高い税率で税金を納付する仕組みになっていますので、高額所得者ほど節税ニーズが高い。
現時点の所得税の最高税率は45%ですので、所得の半分近くを税金として納付する必要があり、住民税も考えると、45%では済まない仕組みになってるのが現状です。
高所得者にとっては節税ニーズがあり、また国にとっても将来性のあるビジネスを支える政策が必要になります。
こうした高額所得者と国の思惑が相まって、「エンジェル税制」という税制が設けられています。
ベンチャー企業にとっても、このエンジェル税制を活用すれば、エンジェルからの資金調達が可能となることは言うまでもありません。
ここでは「エンジェル税制」について説明します。
エンジェル税制とは?
エンジェル税制とは、ベンチャー企業への投資を促進するためにベンチャー企業へ投資を行った個人投資家に対して税務上のメリットを与える制度のことです。
このエンジェル税制では、個人投資家がベンチャー企業に対して投資を行った場合には、投資時点と、売却時点のいずれの時点でも税制上のメリットを受けることができるようになっています。
実際、高額所得者のなかには、将来有望なベンチャー企業を探し出し、その企業に投資したうえで、エンジェル税制を活用している方々がいらっしゃいます。
こうしたエンジェル投資家と繋がることができれば、資金需要のあるベンチャー企業にとっては資金調達の選択肢を1つ増やすことが可能となります。
エンジェル税制のメリット
エンジェル税制の概要について説明しましたが、ここではこのエンジェル税制のメリットについてお伝えします。
エンジェル税制のメリットは、個人投資家側と会社側の2つの視点で考えることができます。
・資金調達ができる。
エンジェル投資家から出資を受けることになりますので、ベンチャー企業等にとっては資金調達できるというメリットがあります。これは当然です。
・個人投資家にとっては、投資時点(所得控除)においても、売却時点においても節税メリットを享受できる。
投資先企業の株式売却により損失を被った場合でも、その年の他の株式売却益と相殺できるだけではなく、翌年以降3年にわたって繰越すことができます(株式譲渡益と相殺することができる)。
個人投資家側のメリットについては、エンジェル税制の優遇措置でもう少し詳しくお伝えします。
エンジェル税制の優遇措置
エンジェル税制のメリットとして、これから説明する優遇措置が設けられていて、個人投資家はこれらのメリットを選択することができます。
※ 個人投資家は投資した年に次の優遇措置AかBのどちらかを選択することができます。
エンジェル税制の優遇措置A
ベンチャー企業への投資金額から2,000円を差引いた金額を、その年の総所得金額から控除することができます。ただし、控除対象となる投資額の上限は、総所得金額×40%と1,000万円のいずれか低い方が限度となります。
エンジェル税制の優遇措置B
ベンチャー企業への投資額全額を、その年の他の株式譲渡益から控除することができます。控除対象となる投資金額に限度はなし。
売却時点で得られる優遇措置
投資先企業の株式売却により損失を被った場合でも、その年の他の株式売却益と相殺できるだけではなく、翌年以降3年にわたって繰越すことができる(株式譲渡益と相殺することができる)。
エンジェル税制の対象企業
エンジェル税制の対象となるベンチャー企業は、どのような企業でも対象となるわけではなく、一定の要件を満たす必要があります。
もしエンジェル投資家にエンジェル税制を活用させて、エンジェル投資家から資金調達したいならば、ベンチャー企業は次の要件を満たす必要があることに注意する必要があります。
上で説明した優遇措置Aの対象となる企業は次の要件を満たした会社になります。
まずは設立3年未満の中小企業者であること。
そして次の表の要件を満たすこと。
設立経過年数 | 要件 |
1年未満かつ最初の事業年度を未経過 | 研究者あるいは新事業活動従事者が2人以上かつ常勤の役員・従業員の10%以上。 |
1年未満かつ最初の事業年度を経過 | 研究者あるいは新事業活動従事者が2人以上かつ常勤の役員・従業員の10%以上で、直前期までの営業キャッシュ・フローが赤字。 |
1年以上~2年未満 | 試験研究費等(宣伝費、マーケティング費用を含む)が収入金額の3%超で直前期までの営業キャッシュ・フローが赤字。または新事業活動従事者が2人以上かつ常勤の役員・従業員の10%以上で、直前期までの営業キャッシュ・フローが赤字。 |
2年以上~3年未満 | 試験研究費等(宣伝費、マーケティング費用を含む)が収入金額の3%超で直前期までの営業キャッシュ・フローが赤字。または売上高成長率の25%超で直前期までの営業キャッシュ・フローが赤字。 |
また、優遇措置Bの対象となる企業は次の要件を満たした会社です。
まずは設立10年未満の中小企業者であること。
そして次の表の要件を満たすこと。
設立経過年数 | 要件 |
1年未満 | 研究者あるいは新事業活動従事者が2人以上かつ常勤の役員・従業員の10%以上。 |
1年以上~2年未満 | 試験研究費等(宣伝費、マーケティング費用を含む)が収入金額の3%超。または研究者あるいは新事業活動従事者が2人以上かつ常勤の役員・従業員の10%以上。 |
2年以上~5年未満 | 試験研究費等(宣伝費、マーケティング費用を含む)が収入金額の3%超。または売上高成長率が25%超。 |
5年以上~10年未満 | 試験研究費等(宣伝費、マーケティング費用を含む)が収入金額の5%超。 |
以上のような要件を満たせば、エンジェル税制の対象企業になります。
エンジェル税制を活用して資金調達したいならば、これらの要件を頭の片隅に置いておきましょう。
エンジェル税制の事前確認制度とは?
投資先が実際にエンジェル税制の対象となる企業かどうかは、出資をする個人投資家にとっても、投資を受けるベンチェー企業にとっても関心のあることだと思います。
投資した企業が、エンジェル投資の対象企業でないことが後から判明した場合には、投資家にとっては思わぬ誤算になるはず。
そこでこうした誤りを防ぐために、事前確認制度が設けられています。
この事前確認制度とは、エンジェル税制の対象企業か否かについて事前に公的機関が確認する制度のことです。
この事前確認をすると、確認された会社名が経済産業省のwebサイトで公表されることになります。この事前確認をすれば、ベンチャー企業は個人投資家に対して「エンジェル税制の対象企業」と説明したうえで、出資の勧誘をすることができるというメリットもあります。
個人投資家がエンジェル税制を利用する場合の流れ
個人投資家がエンジェル税制を利用する場合の流れは次のようになります。ざっくり確認してみましょう。
- STEP.1確認書の発行申請投資を受けた企業が経済産業局に確認書の発行を申請する
- STEP.2審査エンジェル税制の対象かどうかを審査する(ただし事前確認制度の場合は事前に審査)
- STEP.3確認書交付エンジェル税制の対象と確認されると経済産業省大臣が確認書を交付する
- STEP.4個人投資家に交付投資を受けた企業が確定申告時に必要になる書類を個人投資家に交付する
- STEP.5確定申告個人投資家は企業から交付された書類を添付して確定申告する
まとめ
今回はエンジェル税制の概要や、そのメリットについて説明しました。
エンジェル税制を活用すれば、個人投資家にとってはかなりの税制上のメリットを享受できますし、ベンチャー企業にとっても資金調達ができるというメリットを享受することができます。
ベンチャー企業はエンジェルからの資金調達の際に、エンジェル税制が交渉材料になることを知っておいても損はないと思います。